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はじめに
『付着生物のはなし』(朝倉書店)の書評をする前に少しだけ。
私の読書スタイルはかなり独特で、同時に10冊くらいの本を並行して読みます。2、3冊を携帯して手が空いたら流し読みしたり、精読が必要な難解な本は枕元に何冊か置いてじっくり読んで寝落ちしたり。さらに悪癖があり、読み終わったと思ったら、すぐにまた最初から読み直すこともあります。なので一冊ちゃんと「読み終わった」と認識するのにかなり時間がかかります。
この本は読み終わるのに3か月かかりました。
私の読書の目的はおおまかに、
①純粋に楽しむ
②知識を増やす
③どの本のどのあたりに何が書いてあるかざっくり把握しておく
特に③に重きを置いています。人間は忘れる生物なので、膨大な内容そのものを覚えるというより、正確な情報にすぐにアクセスできるようにしています。
ちゃんとした本ってとてもすごくて、SNSを30分やって5個なにか得られるとしたら、本は30分読んだら20個くらい新しいことを知れる気がします。もちろん、SNSも本も必ずしも何かを得る必要はないですが。
前提として、こういう考えを持った人間による書評です。書評とは言っても、初めて読んだ時の感想が薄れると思うので、内容についてはあまり書きません。書評ってそれでいいのでしょうか。私はSNSをよくやるのでSNSが得意です。YouTubeはあまり見ないので自分で動画を作って投稿するのが苦手です。他人の書評を全然読んだことがないので書評はまだまだ下手だと思います。ご容赦ください。
最後に、こういう書籍を無料で読みたい人は近所の図書館でリクエストしましょう。
【書評】
本書はオムニバス形式で、研究者や民間企業職員のほか、付着生物学会員と思われるアマチュア愛好家らにより執筆されています。本書の「おわりに」で言及されているように、専門的になりすぎず、初学者でも平易で読みやすい文章です。フィールド写真・生態イラスト・ライフサイクルなどの図説が充実していて視覚的にわかりやすいのが特徴です。
第一章で以下のような話をして好きな人の心をギュッと掴んで進めてくれる構成です。私の要約になりますが、これを読んで「もっと知りたい!」ってなる人にはおすすめの本です。
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例えば、プランクトン(浮遊生物)、ネクトン(遊泳生物)、ベントス(底生生物)は、分類体系ではなく生活様式によって類型化されたもの。このうち、底生生物をさらに移動能力で分類し、岩石などに付着する生物を「付着生物」と呼ぶ。無脊椎動物のほとんどの動物門を含む。こういった類型化は便宜的なものであり、明確に区別をするのが難しいケースがある。例えば、フジツボ類の幼生期はプランクトンだが、変態して最終的にベントスになる。(生活史での変化)
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【読む前の感想】

【読んだ感想】
生き物が好きな多くの人は、カニが好きな人はカニの本、魚が好きな人は魚の本を読みがちではないでしょうか。前述した通り、この本は多様な分類群を横断し、とらわれていないのがコンセプトです。これまで自分が興味ありそうだけれど、知らなかった話が突然飛び込んできます。興味の幅や、自分の分野外のことへ視野を広げるのにちょうど良いです。
私の場合は、本書を読んでいる期間中に、本書に登場するカキ測定アプリの開発者の1人から別件で話があったのが印象に残っています。水産界隈は世間が狭いので、何が何の役に立つかわからないのが水産のおもしろくて怖いところだと思います。
良くも悪くもオムニバス形式でたまにある、似た内容が表現を変えて何度か登場するのがすごく好きです。「これさっきも読んだな」っていう感触が記憶への定着に繋がる気がするので。
私は本を読み終わったらいつも「他にこういう内容も載ってたらなぁ」と考える欲深き者なのですが、本書の場合は「この本を読めば付着生物のすべてがわかる、と言っても過言ではない」とうたっている通りに微塵も思いませんでした。参考文献が豊富なので、気になった項目は自身でさらに踏み込めるようになってます。
そして、日本生態学会さんへ。『新・付着生物研究法: 主要な付着生物の種類査定』の増刷をよろしくお願いします。
【印象に残ったセンテンス】
「寄生生物も、基盤を生物とする付着生物と捉えることができる 」(p. 37)
「船体に着生すなわち”乗船”した個体」(p.108)
「フジツボ地位向上委員会」(p.154)
【この本を読むのにおすすめの人】
・海に生息する無脊椎動物に興味がある趣味人
・海洋開発、環境教育に関心のある一般読者
・海面および陸上養殖業者
・海洋政策に関わる行政関係者
・海洋構造物、塗料、バイオ素材など環境工学を学ぶ学生
本は出会い方が大事だと思ってるので、興味ありそうな人にプレゼントなどいかがでしょう。私が中高生の頃にこの本を貰ったら、ときめいてしまうと思います。
【登場する海の生物】
様々な無脊椎動物、それらの幼生。細菌類、藻類、転じてドメインなど多岐にわたります。
●環形動物:カンザシゴカイ、ケヤリムシ、オニイソメ
●刺胞動物:イソギンチャク、スナギンチャク類、ヒドロ虫、遊泳性クラゲのポリプ期、八方サンゴ(ウミトサカ等)、六方サンゴ(イシサンゴ等)、ヤギ類
●節足動物:フジツボ、シンカイヤドカリ類、エビ、カニ、ワレカラ、
●軟体動物:カキ類、イガイ類、ホタテガイ、カサガイ類、ヒザラガイ類、後鰓類(ウミウシ、アメフラシ)
●棘皮動物:ヒトデ、ウニ、ナマコ
●コケムシ:チゴケムシ、フサコケムシ
●カイメン:いろいろ
●ホヤ:シロボヤ、マボヤ
●藻類:カジメ、コンブ、ワカメ、他大型藻類
●魚類:コバンザメ、チョウチンアンコウ
●有櫛動物:クシクラゲ
●扁形動物:ヒラムシ類
●輪形動物:ワムシ
●腹毛動物:イタチムシ
●毛顎動物:イソヤムシ
●種子植物:アマモ
●有孔虫:ホシズナ
著者陣の専門分野のほか、モデル生物、産業上重要な生物として、コケムシ、フジツボ、刺胞動物、ミドリイガイ、カキ類が特に掘り下げられている印象です。内容の性質から、生物分類技能検定の勉強になると思います。
【この本が好きな人におすすめの書籍】

【気になる朝倉書店の書籍】

●『自然史博物館の資料と保存』
博物館での標本(資料)の作成、整理、保存、利用方法が解説されています。特に興味を引いたのは標本の撮影と、長持ちするラベルの工夫。トピックスだけでも読むとためになります。「採集」と「採取」の使い分けがここちよい。参考文献が豊富。学芸員に興味ある人はぜひどうぞ。
『標本学 第2版: 自然史標本の収集と管理』と併せて読むと良いがこちらは絶版。
●『フィールド調査のための安全管理マニュアル』
もともと日本生態学会が公開していたものを増補改訂したもの。関係者は必携。
●『自然史標本の作り方』(近日発売)
タイトル的に前述の『自然史博物館の資料と保存』の「標本作成」の分野について深めたものでしょうか。楽しみです。
●『カラー図解 水の中の小さな美しい生物たち ―小型ベントス・プランクトン百科―』(2025年7月1日発売予定)
『小学館の図鑑NEOポケット プランクトン』の著者らによる内容もりもりの図鑑。わくわく。
【書評依頼受付中】
基本的に料金無料、本だけください
(生物系書籍・漫画など。ジャンル外応相談)
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